会計事務所のM&Aを検討する際は、そのメリットとデメリットを確認することが必須です。M&Aの方法を誤ると、メリットを得ることができません。また、デメリットによる不利益が大きくなる恐れもあります。今回は、会計事務所のM&Aにおけるメリットとデメリット、注意点などについて詳しく解説します。
目次
会計事務所がM&Aを行うと廃業を免れられる可能性があることの他、さまざまなメリットがあります。M&Aを選択すべきかどうか的確に判断するためにも、メリットについて1つずつ確認していきましょう。
代表者の高齢化や体調などの問題で早期に後継者を見つける必要がある場合、M&Aが解決策になる可能性があります。会計事務所の後継者は、税理士や公認会計士などの有資格者で、なおかつ経営の知識や適性を持っていなければなりません。しかし、そのような人物は容易には見つからないため、後継者不在によって廃業を選ばざるを得なくなるケースもあります。
M&Aで第三者に会計事務所を譲渡すれば、譲受先が選定した人物が代表者となるため、後継者問題を解決できるでしょう。
廃業を選択する場合、顧問先との取引を維持できなくなります。顧問先は新たな顧問先を探すことになり、少なからず負担がかかるでしょう。長年にわたり顧問を努めた身としては、なるべく迷惑をかけたくないと思うのではないでしょうか。M&Aを行えば会計事務所の廃業を免れられるため、顧問先との取引も維持できます。
会計事務所を廃業すれば、従業員は全員解雇になります。従業員は転職先を探すことになりますが、年齢やスキル、経験によっては異業種への転職を余儀なくされるでしょう。このように、従業員の雇用を守れなかったことを悔みながら廃業する会計事務所は少なくありません。
M&Aであれば、従業員の雇用をそのまま譲受先へ引き継ぐことができます。ただし、事業譲渡で従業員を引き継ぐかどうかは譲渡側と譲受側の合意が必要なため、必ずしも全従業員の雇用を守れるとは限りません。
譲受側が従業員の引継ぎに意欲を示さず、なおかつ解雇となる合理的理由がある場合は、その従業員は解雇せざるを得なくなります。このような事態を避けたい場合は、全従業員を引き継ぐことを条件として、交渉する必要があります。
会計事務所を譲渡した後は、経営者は退任することが一般的です。しかし、契約内容によっては会計事務所で働き続けることが可能です。特に、譲渡先に税理士や公認会計士が在籍していない場合は、しばらくは継続して働いてほしいと言われる可能性が高いでしょう。
アーリーリタイアとは、比較的若い年齢で第一線を退くことを指します。会計事務所のM&Aでは、財産価値に基づいた金額を受け取ることが可能です。そのお金を元手に別の事業を始めたり、悠々自適の隠居生活に入ったりと、自由に選ぶことができます。
会計事務所以外の事業を行いたい、第一線から退きたいと考えており、従業員の雇用継続や顧問先との取引の維持などを希望する場合は、M&Aを前向きに検討しましょう。
大手の会計事務所や税理士事務所が買い手の場合、その傘下に入ることで経営が安定する可能性があります。知名度が高く、ブランド力にも優れていれば、顧問先の新規開拓も容易になるでしょう。ただし、このメリットを得るためには、経営者が退任せず続投しなければなりません。
会計事務所がM&Aを行う場合、デメリットにも注目が必要です。デメリットを抑えるための対策を立てるためにも、デメリットを確認しておきましょう。会計事務所がM&Aを行うデメリットは次のとおりです。
M&Aは、譲渡側と譲受側のマッチングに時間がかかる場合があります。会計事務所の買い手としては、大手会計事務所や税理士事務所などですが、大手になればなるほどに数は少なくなります。そのうえで、売り手の規模や売上、従業員数、地域などの条件を満たす必要があるため、買い手の選定に時間がかかる傾向があります。
会計事務所を第三者に譲渡したり大手の傘下に入ったりすると、経営方針や人員配置などを転換する場合があります。その結果、従業員にとって良い職場ではなくなり、退職してしまう場合があることに注意が必要です。従業員は会計事務所の売上を実質的に作っているため、退職することで会計事務所の価値が下がります。そうなれば、譲渡の対価が低くなり、アーリーリタイアや別事業での再出発などを実現しにくくなる恐れがあります。
会計事務所を第三者に譲渡する際は、必要に応じて親族と話し合っておくことが大切です。配偶者や子供が「自分が会計事務所を引き継げる」と思っている場合、M&Aを行うことを伝えるとトラブルになるケースがあります。
会計事務所がM&Aを成功させるために、次の注意点を押さえておきましょう。
M&Aには、株式譲渡や事業譲渡、合併、会社分割などがあります。会計事務所は、個人はもちろん法人でも株式を持たないため、行えるのは事業譲渡のみです。合併も選択できますが、後継者問題の解決やアーリーリタイアを目指すのであれば、事業譲渡を選択しましょう。
なお、事業譲渡は株式譲渡と比べて手続きが複雑で流れも異なるため注意が必要です。
M&Aをいつまでに行うべきか考え、期限を定めましょう。M&Aを実施するには、買い手探しから交渉、デューデリジェンス、最終契約という流れを踏む必要があります。買い手探しが難航すると、スケジュールが後ろにずれることになるため、なるべく早く探し始めた方がよいでしょう。
顧問先によっては、特定の人物に顧問を依頼したいと考えているため、顧問先から理解を得ずにM&Aを行うと、担当者が変更になった際に契約を解除される恐れがあります。あらかじめ、M&Aの実施に理解を求めたり、代表者が残って信頼性を担保したりしましょう。いずれ退任したいのであれば、理解を得られるように根気よく話すしか方法はありません。
会計事務所のM&Aを検討する際は、メリットとデメリット、注意点を押さえて、最適な選択肢かどうか考えましょう。M&Aで会計事務所の経営方針が大きく変わる場合、廃業を選ぶ方がよいと考える人もいます。まずは、M&Aにおける会計事務所の需要を調べるために、専門家に相談することをおすすめします。M&Aのサポートを行っている税理士であれば、会計事務所独自の事情に精通しているため、より充実したアドバイスやサポートが期待できます。
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