国際税務とは?知っておくすべき8つの規定についてご紹介

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コロナ禍の終息や日本の景気が下がったことにより、グローバル展開を検討する企業は多いでしょう。ビジネスの対象となる国によって税制が異なるため、国際税務について理解してことが不可欠です。

国際税務は把握すべきことが多いため、実施前に確認しておくことが必須といえるでしょう。ここでは国際税務の概要や、知っておくべき8つの項目などについてご紹介します。

国際税務とは

国際税務とは、異なる国々の税制や法律が関わる場合における税金に関する問題を扱う分野です。企業が異なる国々でビジネスを行う場合、国際税務は非常に重要な役割を果たします。

国際税務の主な問題の1つは、企業が異なる国々で収益を上げる場合の課税問題です。国々によって異なる税制度があり、企業がどの国でどのように課税されるかが異なります。そのため企業は税務戦略を立て、国ごとに最適な方法で課税を行うことが必要です。

国際税務には税務計画、税務調査、移転価格、税務訴訟などの分野が含まれます。海外でのビジネスを展開する企業は、これらの問題に対処するために税理士や弁護士、公認会計士といった専門家のアドバイスを受けることが多いです。

租税条約について

国際税務においては、租税条約の規定を適用することが重要です。とくに異なる国の法律や規制が絡む場合には、租税条約に基づいて納税義務を適正に履行することが求められます。

租税条約とは、国際的な取引や移動に関わる個人や企業などの納税義務を定める国際条約のことです。通常、二国間または多国間で締結され、それぞれの国の法律に基づいて課税される所得、資産、およびその他の税の種類に関する取扱いを規定します。

租税条約には、特定の所得や資産に対する課税権をどちらの国に与えるか、税務当局が情報を交換するための規定や、税務当局が他国において調査を行う際の手続きについての規定などが含まれます。これらの条項は、企業が国際的なビジネスを行う際、二重課税を回避するために非常に重要です。

租税条約は、異なる国の間での税務に関する紛争を解決するためにも使用されます。例えば二重課税が発生した場合、条約によって課税権をどちらの国に与えるかが明確になり、紛争を解決するための手順が規定されることが一般的です。

さらに、近年は国際的な企業が増加する中で、租税条約の重要性が一層高まっています。ビジネスをグローバル展開する企業は、異なる国々でのビジネス展開に伴う税務上の課題に対処するために、租税条約を活用することが必要です。

国際税務の対象になる企業

国際税務の対象となる企業は、海外に子会社や支店を持つ多国籍企業です。グローバル企業は異なる国々で事業を展開しているため、国ごとの税制に従って税金を納める必要があります。また、株主が海外に住んでいる場合も国際税務の対象です。

輸出入を行っている場合、国際貿易の税制度に基づいて税金を支払わなくてはいけません。海外子会社を持っている場合には、親会社と子会社の間で税金を移転する必要もあります。国際取引を行っている場合、異なる国の税金を扱うために税務処理の手続きや書類の作成が必要なケースも想定されるでしょう。

このような場合、国際税務の専門家や税理士に相談する必要があります。とくにアメリカの企業との取引を行う際には、アメリカの税法に従って税金を計算する必要があるため、アメリカの税法に詳しい専門家に相談すると安心です。

なおグローバル・ミニマム課税は、日本に本社をもつ多国籍日系企業が対象となります。グローバル・ミニマム課税とは、国際的な取引における課税ルールの整備の一環として、OECD(経済協力開発機構)が提唱した多国籍企業による利益移転を防止するための取り組みです。各国が最低限度の課税を行うことにより、利益移転による租税回避を防止する目的で策定されました。

さらに2023年度の税制改正により、グローバル・ミニマム課税が導入される見込みです。

グローバル・ミニマム課税は、全世界で展開する企業にとって税負担増加という影響のある制度だといえます。

なお、2023年の法改正については、以下の記事もあわせてご確認ください。

2023年度税制改正大綱によって法人が受けるおもな影響とは?

国際税務の目的

国際税務の目的は、国際的な取引における課税権の配分を明確にすることによって、二重課税を防止し適正な課税を実現することです。またBEPS(Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクトにより、多国籍企業が利益を移転して課税を回避することが問題視され、国際的な取引における課税ルールの整備が進められている状況でもあります。

BEPSプロジェクトとは、OECD(経済協力開発機構)が主導する多国籍企業による利益移転を防止するための取り組みです。多国籍企業が利益を移転して課税を回避することを防ぐため、国際的な取引における課税ルールの整備が進められています。

国際税務において知っておくべき規定は8つ

国際税務の対象となる企業は、さまざまな点に留意しなくてはいけません。ここでは、国際税務において、企業が知っておくべき8つの規定をご紹介します。

1.外国税額控除

外国税額控除とは、日本の納税者が海外で支払った税金を、日本国内で納税する際の課税所得から差し引くための控除のことです。つまり海外で支払った税金分だけ、日本国内での課税対象所得が減少することになります。

外国税額控除は、二重課税を回避するために導入された制度であり、日本国内で課税される所得と海外で課税される所得が同時に存在する場合に適用されるものです。具体的には、日本国内での所得と同じ所得が海外でも課税対象となり、かつその所得に対して海外で課税が行われた場合、外国税額控除の対象です。

外国税額控除は、納税者が自ら申告する必要があります。海外で支払った税金の証明書や納税証明書を提出し、外国で支払った税金の額を証明しなくてはいけません。また、日本国内で課税される所得と海外で課税される所得の関係を把握し、正確な金額を計算することが重要です。なお外国税額控除の制度は、日本だけでなく多くの国で採用されており、海外でビジネスを行う企業にとっては、重要な税務上の課題の1つだといえます。

2.消費税の課税有無

国際税務における消費税の課税については、税法上「国内取引」と「輸入取引」の2つに定められています。基本的に日本国外で発生した取引に関しては、消費税は課税されません。

国際税務においては、異なる国での取引において商品やサービスの輸出入が発生するため、各国での消費税の課税に関する規定を把握することが必要です。一般的に商品やサービスの輸出入においては、以下のような課税方式が存在します。

課税方式内容
輸出に対する課税の免除輸出される商品やサービスに対して課税される消費税が免除される制度。 輸出取引において、国内で支払った消費税を還付される場合がある。
輸入に対する課税輸入された商品やサービスに対して課税される制度。 輸入時に支払った消費税は関税と同様、関税・貿易一般協定(GATT)などの貿易協定に基づいて、一定の条件下で還付される場合がある。
輸出入に対する課税輸出入の両方に対して消費税が課税される制度。 輸出に対して課税された消費税は、輸出先国での消費税額控除の対象となることがある。

各国の消費税の課税方式は異なるため、国際取引を行う企業は、現地の法律や税務規則を遵守しなくてはいけません。また消費税の課税に関する問題は、企業の事業計画やビジネス戦略の立案に大きな影響を与えるため、十分な調査と計画が必要です。

3.恒久的施設の有無

恒久的施設の有無は、国際税務上の課題として、企業の事業計画やビジネス戦略の立案に大きな影響を与えるため重要な規定の1つです。恒久的施設の有無とは、海外にある企業が同国においてビジネス活動を行う場合に、その国で「恒久的な事業所や施設」を有するか否かを問題とする税務上の規定です。

具体的には、企業がその国において一定期間、建物や機械、設備などの物理的な存在を持つ場合、または同じ場所で商談や交渉などのビジネス活動を継続的に行う場合、その国において「恒久的な事業所や施設」を有するとみなされます。

恒久的施設が存在する場合、その国の法律に基づいてビジネス活動に課税されることがあるため注意しましょう。例えばその国で得た所得に対して、その国の法定税率が適用されます。一方、恒久的施設が存在しない場合、その国で得た所得については、国内の居住者と同じように非居住者課税が適用されることが一般的です。

非居住者課税は、国外から得た所得に対して国内において一定の税率が適用される制度であり、通常は恒久的施設が存在しない場合に適用されます。恒久的施設の有無に関する規定は、各国の法律によって異なるため、国際的なビジネスを行う企業は現地の法律を遵守しなくてはいけません。

4.海外子会社に対する寄附金の損金不算入

日本の法人が海外に設立した子会社に対して行った寄附金は、その金額を損金として計上できない規定になっています。具体的には、日本の法人が海外の子会社に対して行った寄附金は、原則として日本の法人の所得金額から控除される規定です。

しかし、海外子会社に対する寄附金については、その金額を損金として計上できないため、所得金額から控除されません。この規定は、海外子会社に対する寄附金が、実際には親会社の所得移転を意図している場合があるため、適正な税務処理が行われるようにするために導入されたものです。

このような規定が存在するため、企業が海外子会社に対して寄附金を行う場合には、慎重な対応が求められます。また寄附金を行うことにより、海外子会社の社会的貢献や地域社会の発展に貢献することも可能です。税務上の影響を考慮して、適切な額を寄附するように調整しましょう。

5.移転価格税制

移転価格税制とは、関連会社間での商品やサービスの取引において、その価格が市場価格と比較して過度に高く設定されている場合に課税される税制です。国際税務における重要な規定の1つであり、異なる国での関連会社間での取引で、企業が利益を逃れること(意図的に収益を減らしたり、利益を他の企業や国に移したりして、税金を支払わずに納税義務を回避すること)を防ぐために導入されています。

移転価格税制によって、企業は関連会社間での商品やサービスの価格を、市場価格に基づいて設定しなくてはいけません。このように設定された価格に基づいて取引が行われることにより、企業が利益を移転させたり、利益を過度に抑えたりすることを抑制することが可能です。

移転価格税制は、具体的に以下のような規定を含みます。

・関連会社間での取引において、価格が市場価格と比較して過度に高い場合、適正な価格に修正することが求められる
・関連会社間での取引において、価格が市場価格と比較して低すぎる場合、適正な価格に修正することが必要
・関連会社間での取引において、価格が適正であることを証明しなくてはいけない

移転価格税制は、多国籍企業や関連会社間での取引において、正しい税務処理が行われるようにすることが目的です。そのため、企業は移転価格に関する書類や報告書を作成する必要があります。また移転価格税制に違反した場合、罰金や課税増加などの厳しい罰則が科せられることもあるため、企業は移転価格税制について注意深く対処しなくてはいけません。

6.タックスヘイブン対策税制

タックスヘイブン対策税制とは「タックスヘイブン(租税回避地)」と呼ばれる国や地域における、企業の税金回避を防止するための税制のことです。タックスヘイブンは、低い法人税率や税制上の優遇措置を提供することで、企業の課税負担を低減できます。そのため、多くの企業がタックスヘイブンを利用して、国際的な課税競争によって税金を回避することが問題となっている状況です。

タックスヘイブン対策税制は、このような問題を解決するために企業がタックスヘイブンの利用を防止する措置の1つです。企業が公正な税金を納めることを促すことにより、国際的な租税逃れの問題を解決するための重要な措置といえます。

具体的な措置の内容は、以下のとおりです。

・タックスヘイブンにある子会社からの配当について、源泉徴収税率を引き上げる措置
・タックスヘイブンにある子会社に対する減価償却資産の取り扱いに関する制限
・タックスヘイブンにある子会社からの支払利子について、源泉徴収税率を引き上げる措置

7.過小資本税制と過大支払利子税制

過小資本税制とは、海外子会社に対して、その資本金が一定額以下の場合に課される税制のことです。日本国内で行われた同種の事業の場合に比べて海外子会社の資本金が極端に少ない場合、その過小な資本金に対して課税を行うことにより、企業が海外子会社から利益を移転しても、適正な税金を納めるように促すことを目的としています。

海外子会社の事業活動が、日本における本社や支店と比較して極めて少ない場合、課税対象です。課税対象となった場合、課税対象となる利益に対して課税されます。ただし過小資本税制は、国際的な課税競争によって企業が海外子会社を設立することを防止するため、多くの国で撤廃されている状況です。

過大支払利子税制とは、海外子会社に対して、その本国に比べて過剰な利子費用を支払った場合に課される税制です。企業が海外子会社に高い利子を支払い、その利子による減税効果を得ることを防止するために、過大支払利子に課税を行うことで、適正な税金を納めるように促すことを目的としています。

海外にある子会社が多少で、その子会社からの支払利子が、国内にある本社や支店と比較して極端に高い場合に課税対象となるため注意しましょう。課税対象になった場合、その海外子会社からの支払利子が過剰な場合に課税されます。

過大支払利子税制は、適正な課税を行うことにより、企業が減税目的で海外子会社を活用することを防止するために導入された税制です。国際的な課税競争によって、企業が海外子会社を設立することを防止するための措置といわれています。ただし、この税制は過度に適用されることがあるため、国際的な税制に関する調整も必要でしょう。

具体的には、海外子会社の資本金が一定以上の額に満たない場合や、日本国内での金利よりも高い利子を支払っている場合に、その額に対して課税されます。これにより、企業が過小資本や過大支払利子を行って海外子会社から利益を移転することを抑制し、適正な税務処理を促すことが目的です。またこれらの規定は、税務当局による調査や判断によって適用されるため、企業が適正な税務処理を行うことが求められます。

過小資本税制・過大支払利子税制について正確な知識を持ち、適切な税務処理を行うことが重要です。

8.海外子会社配当の益金不算入および源泉税の損金不算入

日本法人が海外子会社から受け取る配当金について、その配当の95%は所得計算上益金に算入されません。日本での課税は受け取った配当の5%部分のみです。また、外国源泉税等は損金不算入扱いとなります。

海外子会社からの配当金が、実際には親会社の所得移転を意図している場合があるため、適正な税務処理が行われるようにするために導入されました。ただし例外もあります。

例えば、海外子会社が「有事の際には日本の親会社から資金援助を受けられる」といった約束がある場合には、その海外子会社から受け取った配当金の益金は、所得金額への算入が可能です。また一定の要件を満たす場合、源泉税を損金として計上できることもあります。

海外子会社からの配当金や源泉税に関する規定は、非常に複雑です。企業が海外子会社との事業活動を行う場合には、このような規定について正確な知識を持ち、適切な税務処理を行うことが求められます。

グローバル展開時には国際税務の把握が必須

異なる国々の税制や法律が関わる場合における税金に関する問題を扱う分野が、国際税務です。グローバル展開するビジネスを行う企業は、必須で対応しなくてはいけません。

国際税務において知っておくべき規定は、以下の8つです。

・外国税額控除
・消費税の課税有無
・恒久的施設の有無
・海外子会社に対する寄附金の損金不算入
・移転価格税制
・タックスヘイブン対策税制
・過小資本税制と過大支払利子税制
・海外子会社配当の益金不算入および源泉税の損金不算入

国際税務は、国によってルールが異なり非常に複雑なため、適切な知識を持った専門家のサポートが必要です。

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この記事の著者

ラチーコ

大手会計ソフトメーカーの記事執筆、原稿ディレクション業務を担当しています。

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