「税務調査」と聞くと、ニュースなどで税務署の担当者が段ボールを運ぶシーンが浮かぶかもしれません。
どちらかというとネガティブなイメージがある税務調査ですが、毎年一定数の法人、個人に対して実施されています。そのため、ある日突然税務署から連絡が来る可能性も十分あるでしょう。
しかしながら、税務調査がどのような調査なのか詳しく知っている方は少ないのが現状です。そこで今回は、税務調査の概要や調査内容、来る確率などを解説するので、万が一に備えるための参考にしてみてください。
目次
まず、税務調査がどのような調査なのか理解してもらうために、調査の概要と毎年どの程度実施されているのかについて解説します。
税務調査とは、管轄の税務署が企業や個人事業主などに対して、税金を適正に納めているか確認する調査のことです。
納税は自己申告制になっているため、計算ミスや虚偽の申告漏れによる脱税の可能性は否定できません。そのため、税務署が抜き打ちで税務調査を実施することがあります。
税務調査を実施する調査官には、法人や個人事業主に対して税額の算出根拠について質問したり、領収書や帳簿を確認したりする権利が、国税通則法と法人税法によって認められています。したがって、納税者側に該当する法人や個人は、税務調査に協力しなければいけません。
税務調査の結果、計算ミスや申告漏れなどがみつかった場合は、正しい税金額を計算した後、追徴課税の支払いが必要です。
国税庁の報告によると、令和元年の法人に対する税務調査件数は約7.6万件ということで、全申告件数294万件のうち2.6%程度が該当するそうです。一方、令和元年における個人の税務調査の実施件数は4.3万件、全申告件数630万件に対し0.7%程度(例年1%程度)となっています。
また、このうち計算ミスなどによる申告漏れが発見される確率は、法人が約5.7万件、個人が約3.8万件です。つまり、80~90%程度の割合で、追徴課税の支払いが発生していることになります。
参考:国税庁/令和元事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要
税務調査委には、強制調査と任意調査の2種類があります。それぞれの調査概要について解説します。
強制調査とは、国税局が裁判所の令状を持って強制的に実施される税務調査のことです。
おもに脱税の疑いがある納税者を対象にした税務調査で、億単位の脱税など金額規模が大きい場合に実施されます。強制調査はその名の通り納税者側に拒否権がない点が特徴で、税務署の調査官が来た際には、調査を受け入れる以外の選択肢はありません。
任意の法人、個人に対して税務署から事前連絡(電話または通知書)があり、後日実施される税務調査です。つまり、一般的な税務調査が任意調査といえます。
任意調査では基本的に納税者が調査官の質問に回答し、必要に応じて帳簿などを見せたり、提出したりすることが一般的です。なお、調査官は質問検査権と呼ばれる権利を有するため、納税者は帳簿や領収書などを開示する義務があります。
場合によっては、調査官が取引先へ調査に行くこともあるので、くれぐれも虚偽の回答をしないようにしましょう。調査の結果は後日知らされ、誤りなどがあった場合は修正申告を勧奨されます。
税務調査にきたとき、調査官がどのようなポイントを見るのか気になるところでしょう。税務調査で見られるおもなポイントとしては、売上や仕入れ、棚卸資産、人件費、交際費などです。
売上については計上金額や計上時期などを見ることで、過小申告になっていないか確認されます。また、今期に計上するべき売上が、次年度へ計上されていないかという部分もよく見られるポイントです。
仕入れに関しては、実際の取引がない架空仕入れの有無や計上時期の確認がポイントになります。納税額を抑えるために意図的に計上時期をずらしていないかどうか細かくチェックされるので、誤りがないように注意が必要です。さらに棚卸資産についても、評価方法や計上漏れ、実地棚卸の実施有無などをチェックされます。
一方、人件費は従業員数や実働時間、また役員報酬や退職金の額などが確認され、適性範囲かどうかを確かめられます。交際費も正しい用途で使用されているか細かくチェックされます。特に個人事業主の場合は、事業に関係のある飲食かどうかについて確認されるでしょう。
一般的な税務調査は、ランダムに調査対象が選ばれます。しかしながら、税務調査が来る可能性が高い法人や個人事業主には、一定の特徴があることも事実です。それぞれの特徴について解説します。
税務調査が来やすい法人の特徴としては、売上や事業規模が大きいこと、売上や利益の額に波があることなどが挙げられます。
一方、不正が多いといわれる飲食やサービス業などの業種は、比較的税務調査の対象になりやすいでしょう。また、過去の納税時に税務署から指摘を受けたことがある法人も、税務調査の対象になりやすいです。
売上額が大きい個人事業主は、税務調査に入られやすいといわれています。明確な売上額の決まりはありませんが、年間1,000万円を超える売上を上げている個人事業主が対象になるケースが多いようです。
また、確定申告をきちんと実施していない個人事業主も、要注意といえるでしょう。一方、売上に対する経費の割合が明らかに多すぎるなど、申告内容に怪しい箇所が見受けられる個人事業主のところにも、税務調査が入りやすいです。
税務署から税務調査に入る旨の連絡があった場合の準備と、当日の心構えなどについて解説します。内容を確認し、いつ税務調査が来ても問題ないように準備することが大切です。
法人など顧問税理士がいる場合は、そちらに依頼して準備を進めましょう。一方、税理士がいない場合は、スポットでお願いできる事務所があるので、そちらへの依頼を検討する必要があります。
過去3年分の確定申告の資料を準備する必要があるため、申告書類一式や帳簿、預金通帳、請求書や納品書などの各種書類を揃えておかなくてはいけません。
なお、税理士への依頼費用を浮かせるために、自分(自社)だけで対応しようと試みるケースもあるようですが、これは絶対に避けるべきです。税務署の調査官は税金のプロなので、素人では太刀打ちできません。もし法律的にグレーなものでも知識がなければ黒になってしまい、本来支払わなくてもよい税金を支払わなくてはいけないリスクがあります。
したがって、税務調査の対応は税理士に依頼するべきです。税理士紹介ドットコムは、多くの実績を持つ税理士を探せるサービスです。税務調査に対応してくれるお近くの税理士を探そうと思っている方は、ぜひご活用ください。
税務調査の当日は、事前に税理士とよく相談してから臨むようにしましょう。
ただし、税務調査だからといって必要以上に気負う必要はありません。もし間違いが見つかった場合は、修正して不足金額を支払えばOKです。逆に払い過ぎた税金が戻ってくる可能性もあるでしょう。
調査官の質問には、正直に答えます。ただし、わからないことは適当に答えず、きちんと調査して後日回答することが重要です。また、調査官に質問されていないことについては、自分から話さないようにしましょう。詳細を調査するために、帳簿を持っていかれる可能性もあるので、業務に必要なものは事前にコピーを取っておく必要があります。
税務調査は法人と個人のどちらにも入る可能性があります。しかし、強制調査でない場合には、いきなり自宅に税務署の調査官がやってくることは、まずないでしょう。
そのため、税理士に相談して事前にしっかり準備しておけば対応できます。また、普段から適切に申告ができるように、税理士に相談したり、会計ソフトを活用したりすることも大切です。 いつ税務調査に入られても問題ないよう、適性に申告が行えるように仕訳をしましょう。
通常、税理士を通じて申告を行っている場合(代理権限証書を提出している場合)には、税務署からの税務調査の連絡は税理士を通じて行われることになっています。税務調査の日程調整等も税理士を通じて行うことになります。
また、税務署から連絡があった時点で、税務署が抱いている疑問点等を税理士が説明することによって税務調査が省略又は簡略化になることもあります。
もし税理士に頼まずご自身で申告をしている場合に、税務署から税務調査の連絡があったときには、急いで税務調査の立会いを行ってくれる税理士を探してください。
税理士の立会いなしで、ご自身の判断のみで税務調査を受けるようなことは絶対にやめてください。