近年、物価の上昇などに伴って、従業員の待遇改善が求められおり、賃上げを実施する企業が増えています。しかし、経営にダイレクトに影響するため、経営者としては頭の痛い問題でしょう。
そのような中、令和4年より賃上げ促進税制が施工され、有効活用されている状況です。また、令和6年の法改正が行われるため、注目を集めています。
ここでは、賃上げ促進税制の概要や法改正による影響、大企業、中小企業における違いなどと紹介します。
目次
賃上げ税制とは、従業員の給与を前年度より一定以上引き上げた場合に、一定の税額控除が行われる制度であり、賃上げ促進税制が正式名称です。本制度は、給与引き上げに積極的に取り組む企業や個人事業主を支援することを目的としています。
賃上げ税制と似た制度に所得拡大促進税制がありますが、こちらは従業員の給与を前年度より一定以上引き上げた企業に対して税額控除を行うものです。所得拡大促進税制と賃上げ税制のおもな違いは、税額控除の条件と適用期間です。
所得拡大促進税制の適用期間は、令和4年3月31日までの事業年度(個人事業主は令和4年分)であり、一方で賃上げ税制は令和4年4月1日から令和6年3月31日までの各事業年度(個人事業主については令和5年から令和6年まで)に適用されます。また、賃上げ税制では教育訓練費も要件となり、内容が拡充されているのもポイントです。
大企業向けの賃上げ促進税制は、旧人材確保等促進税制に代わって、令和4年4月1日から適用された税制控除制度です。適用対象は、青色申告書を提出する全ての企業です。適用期間は、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの各事業年度とされています。以下で、大企業向け賃上げ促進税制の適用要件と、税額控除額を確認しておきましょう
大企業向けの賃上げ促進税制では、通常要件と2つの上乗せ要件があり、適用される要件に応じて税額控除額が異なります。
通常要件は、継続雇用者(前事業年度、および適用事業年度の全月分の給与などの支給を受けた国内雇用者)への給与等支給額が3%以上増加していることです。ただし、資本金が10億円以上で従業員数が1,000人以上の企業には、以下2つの要件も満たす必要があります。
・マルチステークホルダー方針(給与の引き上げ方針、下請事業者や他の取引先との適切な関係の構築方針、その他事業上の関係者との関係構築方針に関する一定の事項)をWebサイトなどで公開すること
・マルチステークホルダー方針を公表し、経済産業大臣に届け出があったことを証明する書類を確定申告書などに添付すること
一方、上乗せ要件は以下の2点です。
・上乗せ要件1:継続雇用者給与等支給額が、前事業年度より4%以上増えていること
・上乗せ要件2:教育訓練費の額が、前事業年度より20%以上増えていること
大企業向け賃上げ促進税制の税額控除額は、以下のとおりです。
・通常要件:控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額、または所得税額から控除
・上乗せ要件1を満たした場合:税額控除率を10%上乗せ
・上乗せ要件2を満たした場合:税額控除率を5%上乗せ
上乗せ要件に関しては、どちらか一方のみ、1と2と併用の両方が適用できます。したがって、最大30%の税額控除となります。ただし税額控除額の上限は、法人税額、または所得税額の20%です。
参考:国税庁/No.5927 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(大企業向け賃上げ促進税制)
参考:経済産業省/大企業向け「賃上げ促進税制」御利用ガイドブック
中小企業向け賃上げ促進税制は、令和4年4月1日から施行された税額控除制度であり、旧所得拡大促進税制の後継といえるものです。ここでは、中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件と税額控除額をご紹介します。
中小企業向け賃上げ促進税制の適用対象は、以下の条件のいずれかに合致する事業者です。
・資本金または出資金の額が1億円以下の法人
・資本または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
・常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
・協同組合等(中小企業等協同組合、出資組合である商工組合等)
ただし、前3期の事業年度における所得金額の平均額が15億円を超える法人は対象外です。適用期間は、令和4年4月1日から6年3月31日までに開始する各事業年度とされています。
中小企業向け賃上げ促進税制も大企業向けと同様に、通常要件と2つの上乗せ要件があるのも特徴です。
・通常要件:雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加していること
・上乗せ要件1:雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加していること
・上乗せ要件2:教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加していること
中小企業向け賃上げ促進税制の税額控除額は、以下のとおりです。
・通常要件:控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額または所得税額から控除
・上乗せ要件1:税額控除率を15%上乗せ
・上乗せ要件2:税額控除率を10%上乗せ
上乗せ要件は、中小企業向けと同様、どちらかと両方の適用が可能です。したがって、最大40%の税額控除を適用できます。ただし、税額控除額の上限は法人税額、または所得税額の20%です。
参考;経済産業省/中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック
参考:国税庁/No.5927-2 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)
令和6年に法改正が行われ、賃上げ促進税制の内容が一部変化します。以下で、令和6年の法改正による賃上げ促進税制への影響を確認しておきましょう。
まず、大企業への影響をご紹介します。
賃上げを実施した大企業は、法人税額から一定額を差し引くことが可能です。本制度は、3年間の延長が決定され、2024年4月1日から2027年3月31日までの事業年度に適用されます。
2024年4月1日以降、教育訓練費が前年比5%以上増加することに加えて、今年度の教育訓練費が給与の額の0.05%以上占めていなければならない要件が追加されました。これにより、教育訓練費の絶対額だけでなく、給与とのバランスを考慮した上乗せが求められます。
中小企業への影響は、以下のとおりです。
くるみん認定(子育て支援を行っている企業に与えられる認定制度)と、えるぼし認定(女性の活躍を推進する企業に与えられる認定制度)を受けている中小企業は、5%の控除率の上乗せを受けることが可能です。これにより、子育て世代や女性活躍を支援した企業に対する優遇が強化されました。
これまで、法人税額の20%までしか控除されなかった超過額が、今後は5年間繰越できるようになりました。ただし、繰越超過額を控除できるのは、前年よりも給与が増加している年度のみです。
賃上げ税制とは、従業員の給与を前年度より一定以上引き上げた場合に、一定の税額控除が行われる制度です。また令和6年の法改正により、大企業には賃上げをした法人への税額控除制度が3年延長と、上乗せ要件(教育訓練費)に変更が加えられました。
また、中小企業も上乗せ(くるみん/えるぼし)の新設や、繰越限度超過額の5年間繰越が追加されています。
本記事の内容を参考に、賃上げ促進税制を有効活用してもらえれば何よりです。
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